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高齢者の大腿骨近位部骨折は、足の骨が折れるだけの怪我ではありません。骨折をきっかけに動けない期間が生じると、筋力や体力が低下し、肺炎や血栓症、低栄養などの合併症につながることがあります。そのため、骨折後の生命予後や「あとどのくらい生きられるのか」を心配するご家族は少なくありません。ただし、大腿骨を骨折したからといって、一律に「余命○年」と決まるわけではありません。研究では骨折後1年・5年の生存率が報告されていますが、年齢・持病・認知症の有無・骨折前の生活状況・治療後の歩行能力などによって大きく異なります。この記事では、高齢者に多い大腿骨近位部骨折を中心に、生存率のデータの見方・生命予後を左右する要因・治療とリハビリ・退院後の生活や施設選びまでわかりやすく解説します。
| この記事でわかること • 大腿骨骨折後の「余命」は一律に決められない理由 • 日本の研究で報告されている1年後・5年後の生存率 • 生命予後や歩行回復を左右する主な要因 • 治療・リハビリから退院後の生活を考えるポイント • 自宅復帰が難しい場合の施設選びと再骨折予防 |
| 先に結論|生存率は「目安」であり、本人の余命そのものではありません • 日本の研究例では、術後1年の生存率は約80〜86%、5年の生存率は約42〜64%[2] [3] と幅があります。 • 数字の違いは、対象者の年齢・持病・認知症・受傷前の生活機能などが異なるためです。 • 大切なのは統計だけで悲観せず、現在の全身状態と歩行回復の見込みを主治医、リハビリ職に確認することです。 |
参考:一般社団法人 益田市医師会「大腿骨頚部骨折 その後は?」
参考:西日本整形・災害外科学会「65歳以上の大腿骨近位部骨折手術症例の生命予後および予後因子の検討」
目次

大腿骨近位部骨折は、高齢者のその後の生活機能だけでなく生命予後にも影響します。一方で、「骨折したら余命は5年」「90歳なら長く生きられない」といった形で、一律同様に決まるわけではありません。
生存率は、大勢の患者を一定期間追跡して算出した集団のデータです。同じ年齢で同じ部位を骨折しても、持病(特に心臓・肺・腎臓の病気)・認知症・栄養状態・受傷前にどの程度歩けていたかなどによって、その後の経過は異なります。
大腿骨近位部骨折そのものが直接の死因になるというより、骨折をきっかけに活動量が落ち、肺炎・血栓症・感染症・低栄養・持病の悪化などが重なることで死亡リスクが高まります。だからこそ、治療後にできるだけ早く体を起こし、本人の状態に合ったリハビリを進めることが重要です。
参考:医療法人 丸岡医院「骨粗鬆症の症状と治療 骨粗鬆症が引き起こす骨折。人生を変えてしまう」
「大腿骨骨折」という診断名だけではなく、「本人が骨折前に自力で外出できていたか」「認知症があるか」「十分に食事がとれているか」などを含めて見通しを考えます。医師から「予後が厳しい」と説明された場合は、数字だけでなく、何が予後を厳しくしているのかを具体的に確認しましょう。

国内の研究では、大腿骨近位部骨折後の生存率について異なる数値が報告されています。研究によって差があること自体が、「生存率は個人の余命ではない」ことを示しています。
| 国内研究の例 | 1年後 | 5年後 | 読み方のポイント |
| 65歳以上・手術例627例 | 85.9%※ | 63.5% | 術後1年死亡率14.1%。死因では肺炎が最多 |
| 60歳以上・手術例375例 | 80.0% | 42.1% | 退院時の歩行機能と生存期間に関連がみられた |
※1年生存率85.9%は、研究で報告された1年死亡率14.1%から算出した値です。
参考:J-STAGE「大腿骨近位部骨折の5年生存率―退院時歩行機能と生命予後の相関―」
国内の手術症例を対象にした研究では、術後1年の生存率が80.0%、別の研究では1年死亡率14.1%(生存率換算で85.9%)と報告されています。つまり「1年以内に必ず20%が亡くなる」と固定的に捉えるのではなく、患者背景によって結果が変わると理解する必要があります。
同様に5年生存率も42.1%とする研究と63.5%とする研究があり、かなり幅があります。調査した年代や平均年齢・持病・リハビリ環境などが異なるため、ひとつの数字だけを本人に当てはめないことが大切です。
一般的に、高齢になるほど死亡リスクは高まります。しかし、年齢だけで治療方針や余命を決めるものではありません。90歳以上でも、全身状態や本人の希望、麻酔・手術のリスクを総合的に評価して手術が選択されることがあります。
家族が知りたいのは『うちの親はあとどのくらいなのか』という個別の見通しです。主治医には、生存率そのものよりも、現在の心肺機能・感染症の有無・食事量・認知機能 ・リハビリの進み具合を踏まえた今後の見通しを尋ねると、生活の準備につながりやすくなります。

骨折後の生命予後を考えるうえでは、骨が折れたことだけでなく、動けなくなることで起こる二次的な問題を見ることが重要です。
高齢者は数日間でもベッド上で過ごす時間が増えると、筋力や持久力が低下しやすくなります。自力で起きる・立つ・トイレへ行くといった動作が難しくなり、そのまま身体機能が回復しないことがあります。
活動量が低下すると呼吸が浅くなりやすく、食事や嚥下機能の低下が重なると肺炎のリスクも高まります。[8] 国内研究でも、骨折後の死因として肺炎が多かったと報告されています。[9]
参考:NPO法人 PDN「Ⅰ 摂食・嚥下障害と胃瘻 8.まず、患者さんを起こしましょう!」再び食べるための段階的アプローチ
長時間動かない状態では脚の静脈に血栓ができやすくなります。医療機関では、離床やリハビリ、必要に応じた予防策によって血栓症を防ぎます。
参考:一般社団法人 日本呼吸器学会「4)エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&A」Q1 エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)とは何ですか?
痛みや環境変化、せん妄(急に起こる一時的な意識の混乱や脳の機能障害 ) などにより食事量が落ちると、筋肉を取り戻すための栄養が不足します。リハビリだけでなく栄養管理も回復を支える重要な要素です。
心疾患・呼吸器疾患・腎疾患などの持病がある場合、手術や入院をきっかけに状態が変化することがあります。また、急な環境変化や痛みでせん妄が起こることもあり、認知機能・生活機能の回復に影響します。

| 要因 | 確認したいポイント |
| 年齢・全身状態 | 手術やリハビリに耐えられる体力があるか |
| 持病 | 心疾患・肺疾患・腎疾患・糖尿病などの管理状況 |
| 認知症・せん妄 | 指示理解やリハビリ参加、食事・排泄などへの影響 |
| 受傷前のADL | 骨折前に屋外歩行や身の回りのことがどこまでできていたか |
| 栄養状態 | 食事量、体重減少、血液検査など |
| 術後の歩行能力 | 早期に立位・歩行練習へ進めているか |
認知症がある大腿骨近位部骨折の手術患者は、環境調整やリハビリを重ねても歩行機能の回復が難しい場合があります。認知能力の低下によってリハビリの内容や目的を理解できなかったり、忘れてしまったりすることがあるからです。ただし、認知症があるからリハビリが無意味ということではありません。理解しやすい声かけや環境調整を行いながら、本人に合った目標を設定します。
受傷前のADLや歩行能力は、退院時の歩行機能と関連します。骨折前に自立していた方でも、必ず元通りになるわけではありません。「杖なら歩ける」「歩行器で屋内移動できる」など、現実的な目標をリハビリ職と共有することが大切です。
歩くことが難しいまま退院を迎えることになった場合は、在宅復帰を諦めて施設入所を検討する方が増えます。日本の家屋は段差が多く、大柄な歩行器や車いすが手放せなくなった場合に対応しきれないからです。また、歩けなくなって介護の手間が増えることで、仕事や日常生活との両立ができないと考えるケースもあります。このように、歩行能力は生命予後だけでなく、在宅復帰自宅復帰が可能か、どの程度の介護が必要かを判断する考える材料にもなります。

骨粗しょう症は、骨がもろくなる病気です。加齢に伴って筋力や反射が低下すると転倒しやすくなるため、骨粗しょう症のある高齢者は特に転倒・骨折のリスクが高くなります。 日本整形外科学会も、骨粗しょう症を伴う高齢者に多く、骨折を契機に寝たきりや閉じこもりにつながることがあると説明しています。
骨折の種類だけで余命が決まるわけではありません。治療法は骨折の位置・ずれ方だけでなく、年齢、骨質、骨折前の歩行状態、全身状態などを総合して決定されます。
参考:慶應義塾大学病院 KOMPAS「骨盤骨折、大腿骨近位部骨折、下肢骨折 【治療】」

大腿骨近位部骨折では、手術が可能な全身状態であれば手術治療が選択されることが一般的です。慶應義塾大学病院も、手術の目的として早期離床・早期リハビリにより、呼吸器・循環器の合併症、筋力低下、関節拘縮、認知機能低下などを最小限にし、生命予後を改善することを挙げています。
大腿骨頸部骨折では骨接合術・人工骨頭置換術・人工股関節置換術などが検討され、大腿骨転子部骨折では骨接合術が中心となります。手術方法は画像所見や全身状態を踏まえて整形外科医が判断します。
重い持病などにより手術のリスクが非常に高い場合は、保存療法が検討されることもあります。ただし『保存療法なら必ず余命が短い』と一律には言えません。本人の全身状態・痛み・生活目標・治療の負担を医療チームと話し合って決めます。

厚生労働省が紹介する多職種ケアの事例でも、早期リハビリ・せん妄予防・誤嚥性肺炎の予防・栄養管理・退院(転院)支援・二次骨折予防までを一連の支援として行っています。リハビリは単に『歩けるようにする』だけでなく、全身状態の悪化を防ぎ生活を再構築する役割があります。
参考:いきサポ「大腿骨近位部骨折の高齢患者を多職種連携(FLS:骨折リエゾンサービス)でトータルにケア」
国内研究では、術後1週に歩行器で歩けていた患者は、退院時に杖歩行以上へ到達する割合が高かったと報告されています。一方、年齢や認知症、受傷前のADLも影響します。『何日目に何歩歩けたか』だけでなく、本人全体の状態を見ることが大切です。
急性期病院を退院した後も、回復期リハビリテーション病棟や通所・訪問リハビリなどを利用し、本人に合った形で運動を継続します。無理に元の歩き方へ戻すことより、現状の身体機能を踏まえて安全に移動できる方法を確立することが重要です。

『また一人で歩けるようになるのか』は、ご家族が最も知りたい点のひとつです。しかし、全員が骨折前と同じ歩行能力まで回復するわけではなく、回復率をひとつの数字で示すことも適切ではありません。
国内研究では、年齢、認知症、受傷前のADLが退院時歩行能力と関連することが示されています。骨折前に外出まで自立していた人ほど回復の余地は大きい一方、高度な認知症や全身状態の低下がある場合は、車いす中心の生活へ切り替えることもあります。
「杖や歩行器を使えば一人でトイレに行ける」「車いすからベッドへ安全に移れる」といった回復も、生活の質に直結します。本人の希望と安全性を両立させた目標を設定しましょう。
関連記事:介護保険でレンタルできる福祉用具 行動範囲を広げられる歩行器
関連記事:杖の種類や選び方とは?福祉用具専門相談員がおすすめの杖を紹介

大腿骨骨折後の退院先は、以下のような要素を考慮して総合的に判断します。
『自宅に戻すことが正解』『施設なら安心』と決めつけず、本人と家族の生活が続けられる方法を選びましょう。
| 選択肢 | 向いているケース | 確認したいこと |
| 自宅復帰 | 屋内移動が安定し、必要な介助を家族やサービス利用で補える | 段差解消・手すりの設置・トイレや浴室使用の可否・介護保険サービスの利用 |
| 回復期リハビリ病棟など | 急性期治療後も集中的なリハビリが必要 | リハビリ目標・入院期間・最終的な退院先の見通し |
| 介護老人保健施設など | 在宅復帰に向けて一定期間リハビリ・介護が必要 | 入所目的・期間・リハビリ頻度 |
| 有料老人ホームなど | 継続的な介護が必要で、自宅生活の継続が難しい | 介護体制・機能訓練・医療と介護の連携体制 |
退院前には、「ベッドから起き上がれるか」「トイレへ移動できるか」「夜間の介助が必要か」などを確認します。住宅改修や福祉用具を使うことで自宅復帰が可能になる場合もあります。
関連記事:移動介助|廊下と階段での介助方法・住まいの中での動線づくり
以下の状況にひとつでも当てはまる場合は、施設入居も現実的な選択肢になります。
施設利用は『あきらめ』ではなく、必要な介護を安定して受けるための方法のひとつです。

理学療法士・作業療法士などリハビリ専門職の配置や個別機能訓練の有無、日常生活状の動作を支援可能な体制があるか確認します。
廊下幅・手すり・トイレの車いす対応・浴室・居室内の動線など、現在の移動能力に合った環境かを見ます。
認知症があるとリハビリの進み方や転倒リスクにも影響します。声かけ・見守り・夜間対応など、認知症ケアの体制を確認しましょう。
大腿骨骨折の原因が骨粗しょう症である場合、治療の継続・術後フォロー・持病管理が必要です。協力医療機関や通院支援について確認します。
転倒リスクの有無・歩行補助具の使い方・夜間のトイレ対応など、本人のリスクに合わせた見守りが可能かを確認します。
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骨粗しょう症が原因で大腿骨近位部骨折を起こした人は、同様の骨折を繰り返すリスクがあります。厚生労働省が紹介する多職種ケアでも、退院後まで骨粗しょう症治療を継続し、二次骨折予防に取り組むことが重視されています。
参考:いきサポ「大腿骨近位部骨折の高齢患者を多職種連携(FLS:骨折リエゾンサービス)でトータルにケア 取組3」
筋力やバランス能力だけでなく、視力・靴・夜間のトイレ動線・段差・睡眠薬などの薬剤も転倒に関係します。本人の生活場面を具体的に見直しましょう。
関連記事:高齢者の足腰が弱くなってしまった原因と症状について
関連記事:介護保険でレンタルできる福祉用具 転倒リスクを軽減できるスロープ
カルシウムやビタミンD、たんぱく質などを含むバランスのよい食事は骨と筋肉の維持に重要です。ただし、持病や腎機能などによって食事内容の調整が必要なことがあります。運動も骨折後の状態に合わせ、自己流ではなく医療職の指示の範囲で行いましょう。

いいえ。「骨折すると余命5年」と決まっているわけではありません。5年生存率を報告した研究はありますが、その数値は集団の統計です。国内研究でも5年生存率は約42〜64%と幅があり、個人の余命は年齢・持病・認知症・歩行回復などによって異なります。
国内の手術症例を対象にした研究では、1年死亡率14.1%、別の研究では1年生存率80.0%という報告があります。研究対象が異なるため、数字をそのまま本人に当てはめないことが重要です。
長期に動けない状態が続くと、筋力低下・肺炎・血栓症・低栄養などのリスクが高まり、生命予後に影響する可能性があります。そのため、可能な範囲で早期離床とリハビリを進めることが重視されています。
年齢だけで手術の可否が決まるわけではありません。心臓や肺などの全身状態・手術のリスク・骨折前の生活状況・本人や家族の希望を総合して医療チームが判断します。
歩行回復率を一律に示すことはできません。年齢・受傷前の歩行能力・認知症・術後早期の歩行能力などが影響します。杖・歩行器・車いすを含め、本人にとって安全な移動方法を獲得することが重要です。
そのように紹介されることがありますが、単純比較は適切ではありません。大腿骨骨折は非常に高齢の人に多く、がん患者は種類・重症度・年齢構成など千差万別です。重要なのは『どちらが危険か』ではなく、大腿骨近位部骨折が生命予後にも影響する重大な出来事だと理解することです。

高齢者の大腿骨近位部骨折は、歩行能力や生活の自立度だけでなく、生命予後にも影響する重大な骨折です。国内研究では1年後・5年後の生存率が報告されていますが、その値には幅があり、本人の余命を一律に予測できるものではありません。
大切なのは、統計の数字だけで将来を悲観するのではなく、本人の現在の全身状態・認知機能・栄養状態・受傷前の生活・術後の歩行回復を確認しながら、治療・リハビリ・退院後の生活を考えることです。自宅復帰が難しい場合も、回復期リハビリや老人ホーム(公的施設・民間施設)など複数の選択肢があります。病院の医療ソーシャルワーカーやケアマネジャー、老人ホーム紹介窓口なども活用し、本人と家族が無理なく続けられる生活環境を整えましょう。
慶應義塾大学病院 KOMPAS「骨盤骨折、大腿骨近位部骨折、下肢骨折」
西日本整形・災害外科学会「65歳以上の大腿骨近位部骨折手術症例の生命予後および予後因子の検討」
大腿骨近位部骨折の5年生存率―退院時歩行機能と生命予後の相関―
厚生労働省 いきサポ「大腿骨近位部骨折の高齢患者を多職種連携でトータルにケア」
整形外科と災害外科「大腿骨近位部骨折術後の患者において認知症は退院時歩行機能に影響を及ぼすか」
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