静岡県の老人ホーム・介護施設情報サイト

この記事では、下痢の危険なサインの見極めから原因、食事・水分の摂り方、自宅ケアまでを解説します。高齢者が下痢を繰り返す場合、単なるお腹の不調では済まないことがあります。その原因には、薬の副作用や便秘と下剤のバランスの乱れ、食事内容や持病による腸のトラブルなどが考えられます。このような不調は、想像以上に体に大きな負担をかけてしまうことも少なくありません。とくに、症状を伝えにくい認知症の方や、食事・持病に不安がある方などは、下痢の悪化を見落としがちです。
目次

高齢者の下痢は、若い世代よりも全身への影響が出やすい点に注意が必要です。便がゆるい状態が続くだけでも、水分と電解質が失われ、食事量が落ち、いつも通りの生活が一気に難しくなることがあります。もともと持病や体力低下があると悪化が早く、家族が気づいたときには症状が進んでいることも少なくありません。本章では、高齢者の下痢を放置しない方がよい理由を3つに分けて確認します。
高齢者は年齢を重ねるにつれて、体内に蓄えられる水分の量が減り、のどの渇きも感じにくくなります。そのため、軽い下痢でも脱水症状を起こしやすくなるのです。さらに、何度もトイレに行くことが負担になって飲食量が減ると、失った水分を十分に補えません。その結果、ふらつきや倦怠感、さらには意識がもうろうとするなどの症状が現れることがあります。とくに、下痢の回数だけでなく、尿が減る・口の中が乾く・返事が鈍いといった変化があれば要注意です。離れて暮らす家族の場合も、電話での受け答えがどこか投げやりだったり、いつもより活気がなかったりする変化は見逃せません。「なんとなくいつもと違うな」という直感を大切に、こまめに様子を確認することが大切です。 出典:厚生労働省「高齢者のための熱中症対策」
下痢が続くと、食べたものが十分に吸収されにくくなり、食欲そのものも落ちやすくなります。その結果、食事量の低下と栄養不足が重なり、短期間でも体力が落ちてしまいます。もともと筋力が低下しやすい高齢者では、この変化が思った以上に大きく、立ち上がりや歩行、排泄動作にも影響しやすいのが特徴です。昨日までできていたことが急に難しくなるのは、下痢による消耗のサインかもしれません食事介助が必要な方では、ひと口ごとの拒否や飲み込みの悪さとして出ることもあります。 数日で元気がなくなったり、食事を嫌がるようになったりした場合は、便の状態だけでなく栄養状態にも目を向けましょう。
高齢者は、心臓病や腎臓病、糖尿病や高血圧などの持病を抱えていることが珍しくありません。下痢で脱水になると、血圧が不安定になったり、腎臓への負担が増えたりして、もともとの病気が悪化するきっかけになります。普段飲んでいる薬の効き方や副作用の出方が変わることもあり、体調が大きく崩れる原因になりかねません。とくに、食事や水分が十分に取れない状態で無理に様子を見るのは危険です。下痢そのものより、下痢をきっかけに全身状態が落ちることが高齢者では問題になりやすいため、持病がある方ほど慎重な観察が求められます。また、糖尿病薬・利尿薬・便秘薬を使っている方は、普段より体の負担が強く出やすい点にも注意しましょう。

高齢者の下痢では、どの程度で受診すべきか迷う方が多いものです。実際には便の回数だけで判断するのではなく、血便や発熱、腹痛や嘔吐、脱水の有無を合わせた判断が必要です。とくに在宅介護の現場では、本人が自分のつらさをうまく伝えられない場合もあるでしょう。そのため、家族が体調の変化や異変に気づけるかどうかが、受診するタイミングに大きく影響します。ここでは、家庭で確認できる、下痢の危険サインを解説します。
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。
以上のようなケースは、単なる食あたりではなく、腸の炎症や出血、重い脱水が関わっている可能性があります。夜間や休日であっても、これらに当てはまる症状があるときは、様子見を続けないようにしましょう。受診先に迷う場合は、地域の救急相談窓口を利用し、必要に応じて救急受診を検討してください。なお、一部の地域では、ダイヤル#7119 で救急相談を受け付けています。出典:厚生労働省「こんな時は迷わず119へ」/総務省消防庁「救急安心センター事業(♯7119)ってなに?」
高齢者ケアでは、体調変化を適切に記録・共有することも重要です。
参考:介護施設の情報共有を効率化する方法|申し送り・記録・研修を一元化するコツ|ケアベース(carebase)
家庭でもわかりやすい脱水のサインとしては、以下のものがあります。
とくに高齢者の場合、自分から「のどが渇いた」と訴えずに脱水が進むことがあるため、見た目や行動の変化を合わせて観察することが大切です。たとえば、普段より会話が少なくなる、立ち上がるとふらつく、おむつ交換時に尿の量が極端に少なくなったという変化は見逃せません。また「飲めているか」だけでなく、体内にしっかり水分が保たれているかどうかも意識すると、脱水の判断がしやすくなります。認知症のある方では、落ち着きがなくなったり、急に眠くなったりすることが脱水のサインとして現れることもあります。出典:厚生労働省「高齢者のための熱中症対策」
受診の目安は症状の強さで考えるのが基本ですが、在宅介護では行動基準を持っておくと判断しやすくなります。たとえば、以下の症状の場合、早めの受信が必要です。
高齢者は症状の悪化が早いため、数日間様子を見てから対応するのは避けてください。軽そうに見えても、身体の中で症状が進んでいる可能性があります。異変に気づいた段階で、早めに対応することを心がけましょう。また、慢性的に軟便が続いている場合でも、体重減少や貧血、食欲低下があるなら受診して原因を確認するのをおすすめします。
まず相談しやすいのは、かかりつけ医や一般内科です。普段の持病や内服薬を把握している医師であれば、下痢の原因が薬の副作用なのか、持病の悪化と関係しているのかを総合的に見てもらいやすくなります。かかりつけ医がない場合、内科を受診すれば、必要に応じて消化器内科のような他科につないでもらえるでしょう。ただし、以下の場合は消化器科が向いています。
一方で、意識がもうろうとしている・水分が全く取れない・歩けないほどぐったりしている場合は、すぐに救急窓口へ相談するか、救急外来を受診してください。
高齢者の下痢は、ひとつの原因だけで起こるとは限りません。実際には、以下にあげるようなさまざまな原因が考えられます。
したがって原因を大まかに整理しておくと、受診の際にも状況を伝えやすくなります。ここでは、在宅介護の場で遭遇しやすいものを中心に確認していきましょう。
下痢に嘔吐が伴うことがあれば、食中毒が疑われるでしょう。原因物質が直接的に毒物として作用する場合と、細菌やウイルスなどの微生物が増殖することによって、腸などの消化管の感染症として発症する場合の2つのパターンがあります。症状が現れるのも突然であり、激しい症状が起こることが多いです。
ウイルス性胃腸炎を引き起こすウイルスの一種です。あらゆる感染パターンがありますが、手指や食品などを介して、経口で感染することが多く、感染力が強いため注意が必要な食中毒です。主症状は吐き気、嘔吐、下痢ですが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒などあらゆる症状を起こすことがあるようです。特に抵抗力の弱い高齢者については、重症化しやすく、死に至ることもあります。症状が回復したからといって安心はできません。それは、症状回復後でも1~2週間、まれに1ヶ月に亘り糞便中にウイルスを排出し続けるからです。そのため、二次感染を起こし、流行が続くというケースも見られるでしょう。感染しても発症しない人がおり、それらの人が感染拡大をすることもあるようです。
食中毒でよく聞くのがサルモネラ菌です。サルモネラ菌は、あらゆる場所に存在する菌であり、ヒトや牛、豚、にわとりなどの家畜をはじめ、河川や下水などにも生息しています。ペットから感染することもあるので、ペットに触れたあとの手洗いや消毒は気を付けたいものです。特徴として、少量の菌でも食中毒を発症することが分かっています。潜伏期間は6~72時間程度とされており、長期にわたり保菌者となることもあるようです。主な症状は、吐き気・腹痛(下腹部)・38℃前後の発熱・下痢です。(重症の場合、致死率0.2〜0.5%)手指の消毒をしっかりして調理をすることや、調理器具の洗浄と除菌を徹底して行うことが、サルモネラ菌による食中毒の予防につながります。
特定の疾病を起こす大腸菌菌株の総称であり、約170種類あります。そのなかで、よく聞くのがO111やO157であり、これらの大腸菌は100人以上の食中毒を起こすこともある大腸菌です。食中毒のなかでも珍しく潜伏期間が4~9日と長く、発症後4~8日で軽快します。症状として、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こすこともあり、最悪の場合は死に至る可能性もあります。特に高齢者が感染すると、重症化することが多いので注意が必要です。予防法として、夏場は生ものを食べないようにする、食品を取り扱う前の手洗い、加熱すべき食品はしっかり加熱する、調理したものはその場でできるだけ食べる、などを徹底するようにしましょう。
黄色ブドウ球菌とは、ヒトや動物の皮膚、消化管常在菌であるブドウ球菌のひとつであり、顕微鏡で見ると、ブドウの房のように集まっていることから命名されています。食中毒の原因菌としても有名ですが、にきびや水虫などの化膿性疾患の代表的起因菌です。食中毒に話を戻しますが、食物のなかで増殖するときに、エンテロトキシンという毒素を作ります。この毒素は熱に強く、酸素のない状態でも増殖可能な毒素です。原因となりやすい食物に、にぎりめし、寿司、肉、卵、乳をはじめとする調理加工品やお菓子など幅広いことが特徴的です。症状は、吐きけや嘔吐、腹痛、下痢を伴うことはありますが、高熱は出ません。
高齢者の下痢で見落としたくないのが、薬の影響です。代表的なのは抗生物質ですが、そのほかにも下剤や糖尿病の薬、胃薬などが原因になることがあります。そのため、新しく始めた薬だけでなく、量が増えたタイミングや、飲み方が変わった時期も確認したいポイントです。とくに、抗生物質のあとに強い下痢が続く場合は、腸内環境の変化による下痢だけでなく、偽膜性大腸炎のような重い病気が隠れていることもあります。まずは、薬が原因になり得ることに留意し、お薬手帳や処方内容を見返して下痢が始まった時期と照らし合わせてみましょう。ただし、服用中の薬は自己判断で中止せず、気になる場合は処方医や薬剤師に相談してください。出典:厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽膜性大腸炎」
高齢者の下痢で意外と多いのが、便秘対策の下剤が効きすぎてしまうケースです。さらに注意したいのは、便が腸内に詰まっているにもかかわらず、その隙間から水っぽい便だけが漏れ出してくる現象(溢流性便失禁(いちりゅうせいべんしっきん))です。ここで安易に下痢止めを使って無理に止めようとすると、腸の動きが抑えられて便の詰まりを悪化させるおそれがあります。もし、数日間まとまった便が出ていないのに、少量の水のような便だけが続いたり、お腹が張ったりしているときは、この溢流性便失禁を疑いましょう。まずは、排便の記録や下剤の使用量を見返して、以下の情報を整理しましょう。
これらを把握した上で、かかりつけ医や訪問看護師などに状況を伝え、その後の指示を仰ぐことが大切です。出典:日本老年医学会「高齢者の排尿・排便障害」
冷たい飲み物を一気に飲んだとき、脂っこい食事を食べたあと、刺激の強いものを続けて食べたときなどは、腸が敏感になって下痢を起こすことがあります。高齢者は胃腸の働きが若い頃より不安定になりやすく、少しの食事の変化や体の冷えでも、お腹の調子を崩しやすいのです。ただし、食事や冷えがきっかけに見えても、実際には脱水や持病が背景にあることもあります。原因をひとつに決めつけず、食べたものや飲んだもの、部屋の温度や症状が出た時間帯を振り返ると、生活上の見直すべきポイントが見つけやすくなります。
高齢者の下痢は、持病が原因で起こることも少なくありません。持病による影響は典型的な症状だけではなく、「普段より元気がない」のような全身の不調として現れることもあります。一方で、下痢が長引く、便に血が混じるといった場合は、危険なサインの可能性があります。こうした症状があるときや、いつもと違うと感じたときは、早めに受診して原因を確かめましょう。

高齢者が下痢になったときは、何を食べさせればよいのか迷いやすいものです。基本は、腸に負担をかけにくい食事を少量ずつ取り入れ、水分補給と並行して体力を落とさないことです。無理に食べさせる必要はありませんが、何も口にしない時間が長すぎると回復が遅れることもあります。ここでは、取り入れやすい食品と避けたい食品を具体的に紹介します。
下痢のときの食事は、やわらかく、脂肪が少なく、消化しやすいものが基本です。味つけは薄めにし、温かい状態で少量ずつ出すと、胃腸への負担を減らしやすくなります。食欲がない場合は、主食だけ、飲み物だけから始めてもかまいません。無理なく食べられるものを選び、少しずつ量を戻していく意識が大切です。下痢が収まった場合でも、食事の再開は一度に普通食へ戻すのではなく、主食→主菜→副菜の順で様子を見ると、胃腸への負担を抑えながら進められます。食事介助が必要な方では、ひと口量を少なくし、食後すぐに横にならないよう配慮すると負担を減らせます。
主食は、おかゆや食パン、やわらかく煮たうどんなど、胃腸に負担をかけにくいものが向いています。量は少なめから始め、食後に腹痛や便の悪化がないか確認しながら増やしましょう。
主菜は、豆腐・白身魚・ささみ・卵料理など、脂肪が少なくやわらかいものを選ぶといいでしょう。揚げるより、煮る、蒸す、ゆでる調理法の方が下痢の時期には向いています。
果物や副菜では、バナナ、すりおろしりんご、よく煮たにんじんやじゃがいもなどが取り入れやすい食品です。食物繊維が多すぎないものを選び、冷たいままではなく常温から温かめで出すと、身体への負担を減らせます。
飲み物は、経口補水液、白湯、常温の麦茶などが基本です。一気に飲むと刺激になることがあるため、少しずつ回数を分けて飲ませる方が楽に取り入れられます。飲み物は、糖分の多い飲料だけに偏らないよう注意しましょう。
下痢の最中は、腸を刺激しやすい食品を避けることも大切です。せっかく水分補給や休養をしていても、刺激の強い食事が続くと便がゆるい状態が長引きやすくなります。本人が食べたがるものを優先したくなりますが、回復までは胃腸を休ませることを第一に考えましょう。
揚げ物・脂身の多い肉・こってりした総菜は、消化に時間がかかり、腸への負担を強めやすい食品です。回復するまでは、油を控えた調理法に切り替える方が無難です。
ごぼう・きのこ・海藻・豆類などは普段は体によい食品ですが、下痢の最中は腸を刺激して便が増えることがあります。下痢の症状が落ち着くまでは、量を控えめにしましょう。
唐辛子の効いた料理・アルコール・濃いコーヒー・炭酸飲料などは、胃腸を刺激して腹痛や下痢を悪化させることがあります。回復途中でも、急に再開しない方がいいでしょう。
冷たい牛乳やアイス、冷えたジュースは腸を刺激しやすく、人によっては乳糖の影響で便がゆるくなる場合があります。とくに、朝一番や空腹時は避けた方が無難です。
高齢者の下痢で最も優先したいのが、水分補給です。下痢のときは水分だけでなく塩分や糖分も失われるため、ただの水やお茶だけでは足りない場合もあり、経口補水液などを状況に合わせて使い分けることが重要です。一方で、良かれと思って一度にたくさん飲ませると胃腸に刺激を与えてしまい、かえって吐き気を催したり、気分の悪化を招いたりすることもあります。ここでは、家庭で無理なく進めるための具体的な水分の摂り方や、種類選びのポイントを確認していきます。
下痢のときは、コップ1杯を一気に飲むのが難しい場合でも、ひと口ずつなら受け入れやすいため、水分はまとめてではなく少量ずつこまめに飲むのが基本です。水分の量は、体格や持病の有無、発汗や嘔吐の状況によって変わるため、一律には決められません。したがって、目安となる数字だけを頼りにするのではなく、実際に飲んだ量と尿のバランスや口の乾きなどを確認しながら調整してください。また、要介護度が高く自分から飲みたいと伝えづらい方の場合は、決められた時間に声をかけて水分摂取を促すと、安定した補給がしやすくなります。なお、心不全や腎臓病がある場合には、必ず主治医の指示を優先してください。
経口補水液は水分だけでなく、塩分や糖分も同時に補給できるため、下痢によって失われた成分を効率よく補うのに適した飲み物です。市販されている経口補水液は、一般的なスポーツドリンクなど汗をかいたときに飲む飲料とは少し異なり、脱水からの回復・予防に特化した組成になっています。ただし、経口補水液はたくさん飲めばよいというものではありません。とくに、心臓や腎臓に病気があり、水分や塩分の摂取量に制限がある方は、注意が必要です。飲み方としては、一度に大量に飲むのではなく、少しずつ分けて飲むのが基本です。もし、飲み続けてむくみや息苦しさが出てきた場合は飲用を中止し、医療機関を受診しましょう。また、商品ごとに表示されている飲み方や、主治医から特別な指示がある場合は、それらの内容を優先してください。
水分を嫌がるときは一度にたくさん勧めず、スプーン1杯やひと口分など、ごく少量から始めるのが効果的です。常温にする・ストローやスプーンを使う・飲めたら少し休むなど、負担を減らす工夫で飲める量が変わることがあります。吐き気があるときは、間隔をあけながら慎重に進めましょう。また、介護する方は、ペットボトルの減り方やコップの杯数で簡単に記録しておきましょう。水分摂取量を記録しておけば、受診時にも説明しやすく、脱水の進行を見極めやすくなります。飲水を拒否しがちな方には、好きなカップを使う、声かけのタイミングを食後ではなく落ち着いた時間帯にするなど、本人に合わせた工夫も有効です。
高齢者の下痢では、受診までのあいだに自宅でどう支えるかも重要です。無理をさせず、冷えを避け、清潔を保ち、症状の変化を記録するだけでも、その後の回復や診察の質が大きく変わります。とくに在宅介護では、下痢そのものへの対応と、皮膚トラブルや転倒の予防などを同時に考えなくてはいけません。ここでは、介護者が押さえておきたい基本のケアをまとめます。
下痢をしているときは、何度もトイレへ行く負担や食事量の低下で思っている以上に消耗しています。まずは横になれる環境を整え、室温や寝具を調整して体を冷やさないことが大切です。とくに腹部や足元が冷えると不快感が強くなりやすいため、薄手の掛け物や衣類で調整すると過ごしやすくなります。ただし、厚着をさせすぎて汗をかくと、それも脱水につながります。本人が寒がっているか、暑がっているかを見ながら、無理のない保温を心がけましょう。
下痢のときは、身体のつらさから本人が動くのをためらったり、逆にトイレに行こうと焦って転倒しそうになったりします。そのため、トイレまでの動線を片づけ夜間は足元灯をつける、すぐ座れるよう準備するなど、移動しやすい環境づくりが重要です。トイレまでの移動が難しい場合は、ポータブルトイレやおむつの活用も検討しましょう。おむつ使用中の方は、便が皮膚に長く触れないよう、早めの交換を意識しましょう。排泄介助の際は、便の量や色、水っぽさ、血の有無も合わせて確認しておくと受診時に役立ちます。
下痢便は水分が多く刺激も強いため、肛門まわりの皮膚が赤くなったり、ひりついたりします。排便のたびに皮膚を強くこすると悪化しやすいため、やわらかい紙やぬるま湯でやさしく汚れを落とし、しっかり乾かすことが大切です。また、必要に応じて保護クリームやバリア剤を使うと、皮膚トラブルの予防につながります。赤みが広がる、ただれる、痛みで座れないといった状態なら、皮膚のケアも含めて医療者に相談してください。下痢が長引くほど皮膚障害も起こりやすいため、早めの対応を心がけましょう。
市販の下痢止めを使えばすぐ楽になると思いがちですが、原因によっては自己判断で使わない方がよい場合があります。とくに、発熱や血便を伴う下痢では、止めることで回復を遅らせたり、症状を見えにくくしたりすることがあります。高齢者は持病や常用薬もあるため、薬の相互作用にも注意が必要です。そのため、下痢止めに頼る前に、水分補給や食事の調整、受診の要否を確認し、不安があれば薬剤師や医師へ相談してください。とくに感染性胃腸炎が疑われる場合や、抗生剤のあとに始まった下痢では、自己判断で下痢止めを使わず相談しましょう。

受診するときに役立つのは、症状を細かく覚えていることではなく、重要な情報を整理して伝えられることです。高齢者の下痢では、便の状態だけでなく、以下の点も確認しておくと原因を考えやすくなります。
ここでは、介護者が無理なく確認しやすい観察ポイントを絞って紹介します。
どれくらい食べられたか、また、どれくらい飲めたかは、体力の低下や脱水状態を評価する際に直接関係してきます。そのため、完食したかどうかだけではなく、「おかゆを数口食べた」「汁物だけ口にした」「経口補水液を半分ほど飲んだ」など、ざっくりとでも内容や量を記録することが重要です。さらに、食べられない理由についても、「吐き気があった」「腹痛があった」「単なる食欲低下だった」などの情報もメモしておきましょう。もし飲めた量が少ないまま下痢が続いていると、脱水が進みやすくなります。介護記録のように完璧である必要はありませんが、体調の変化がわかる程度にはメモをつけておきましょう。とくに、家族で介護をしている場合は、メモを共有して情報にズレが生じないようにしてください。
高齢者の体調変化を早期に把握するためには、食事量や水分摂取量などの日々の記録・情報共有も重要です。
介護現場における記録業務の効率化やケア品質向上については、「ケアの質向上と効率化を同時に実現!介護記録システムNotice」も参考になります。
尿量は、家庭で確認できる脱水の重要なサインです。トイレに行く回数が減ったり、おむつがあまり濡れていなかったりといった変化が見られる場合は、水分不足の可能性があります。とくに、下痢があるのに尿の量が極端に少ないときは、体内の水分が不足していることを疑ってください。ただし、利尿薬を使っている方や腎機能に問題がある方では、これらのサインが異なる場合もあります。日ごろの様子と比べて変化がないか意識し、判断に迷った場合は早めに医療機関へ相談することが大切です。もし12時間ほどほとんど尿が出ていない場合は、すぐに受診することをおすすめします。
受診時には、普段飲んでいる薬をできるだけ正確に伝えましょう。下痢の原因になる薬があるだけでなく、下痢によって薬の効き方が変わったり、脱水時に続けると負担になりやすい薬があったりします。そのため、お薬手帳があれば必ず持参し、下痢が始まった時期と服用した薬との前後関係も伝えると、スムーズに診察できます。とくに以下の薬は、注意が必要な代表的な例です。
ただし、薬が関係しているかもしれないと思ったときでも、自己判断で急にやめるのは危険です。必ず医療者と相談しながら調整しましょう。
米のとぎ汁状の下痢になる病気として、コレラとウイルス性腸炎があります。コレラの症状は、潜伏期が1日程度であり、主症状は下痢です。軽症の場合は軟便もしくは、1日数回程度の下痢ですが、重症の場合は腹部の不快感と不安感があり、突然の下痢と嘔吐に見舞われます。特有の粘液の混じった便は、甘くて生臭い臭いがすることが特徴的で、血圧の下降や皮膚症状、意識喪失などあらゆる症状を併発します。一方、ウイルス性の急性胃腸炎の可能性もあります。ウイルスや菌に汚染された食品を食べたり、水を飲んだりすることで感染する病気であり、冬から春先に患者が増えます。家庭内感染が多いことが特徴としてあり、治療法は点滴対応が多いです。高齢者は下痢による脱水症状が命の危険となることもあるので、水分補給を行いましょう。
粘血便が出る病気として、潰瘍性大腸炎と大腸がんがあります。潰瘍性大腸炎は、大腸や小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍ができ、未だに原因不明と言われています。粘血便が出るのが主症状であり、ひどくなると1日に10回以上の粘血便が出ることも。発熱や体重減少、まれに便秘が起こることがあり、良くなったり悪くなったりを繰り返すため、長期間にわたる治療が必要です。一方、大腸がんの可能性もあるでしょう。主症状が粘血便であり、どろっとしたゼリー状の粘液を伴った血便が出ることもあります。潰瘍性大腸炎の患者を診察していたら、大腸がんができていることもあるくらい、これら二つの病気は症状が似ています。
血性下痢が出る病気として、虚血性大腸炎や腸チフスがあります。虚血性大腸炎は、大腸への血流が悪くなることにより、循環障害が起こることで発症する病気です。原因は、一時的な血圧の低下や動脈硬化による血流低下と言われています。腹痛と血便があり、主に60歳以上の人に発症しやすい病気です。心臓や血管の病気を持っている人や、大動脈の手術をした人は発症しやすいので注意しましょう。一方、腸チフスも血性下痢が見られることがあります。潜伏期間は2週間ほどで、サルモネラ属のチフス菌とパラチフス菌による感染症であり、衛生状況の悪い発展途上国で流行しやすく、特に南アジアで多く見られます。日本では、昭和の初めから終戦直後にかけて代表的な感染症のひとつでした。
赤痢アメーバという原虫による感染症に罹患すると、いちごゼリー状の便となります。赤痢アメーバそのものは、肉眼では見ることができない大きさであり、経口からの侵入により、赤痢アメーバのシストから脱嚢した栄養型が増殖し、腸の粘膜に潰瘍をつくることで大腸炎を発症します。大腸から血液の流れに乗って散布された栄養体が肝臓、脳、肺などに膿瘍を形成するという、恐ろしい病気です。世界で毎年約10万人がこの感染症のために死亡し、渡航者によくみられる感染症の一つです。国内では、福祉施設の集団感染が見られることがあります。
閉塞性黄疸になると、胆汁が腸に流れなくなるので、便の色が灰白色になります。閉塞性黄疸とは、何らかの原因により胆管がつまってしまい、本来腸の中に排出される胆汁が血液の中に逆流して起こる黄疸のことです。胆管が詰まる原因として最も多いのは胆管結石であり、内視鏡(胃カメラ)を用いて結石を除去する治療を行います。また、胆管がんの90%には閉塞性(へいそくせい)黄疸が出ると言われています。まずは、胆管がんの治療をすることが最優先であり、治療が上手くいけば、灰白色の便が出ることはなくなるでしょう。

高齢者が下痢をしないようにするには、まずは普段の習慣として手洗いをしっかり行うようにしましょう。高齢者は足腰が悪いこともあるので、どうしても洗面所まで行くのがおっくうだとか、手洗いの姿勢が辛いということもあるようです。介護者は、高齢者の手洗いがしっかり行われているかチェックし、習慣化されるようにしてください。
また、介護者もしっかり手洗いを実行することにより、食中毒に関するウイルスや細菌を遠ざけることができます。食事の支度には特に注意し、高齢者介護でおむつなどを扱うことがあれば、特に気を付けましょう。これらのウイルスや細菌は目に見えないからこそ、私たちはより一層注意しなければなりません。
著者プロフィール

監修者プロフィール
