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認知症を発症するとさまざまな症状が現れ、どのように対応したらよいか悩む介護者も多いと思います。
認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状」に分けられ、それぞれの症状には発症する原因や症状に合った対応方法があります。こちらの記事では、長年介護施設で認知症の方と接した経験も踏まえて、認知症の症状である「中核症状」と「周辺症状」の違いや関係性、それぞれの症状に合った認知症の方への対応方法について詳しく解説します。
目次
認知症を発症したときに見られる症状は、中核症状と周辺症状に分けられます。中核症状とは簡単に言えば病気によって直接引き起こされる症状のことで、その中核症状によって引き起こされるのが周辺症状(BPSD)です。
中核症状と周辺症状の関係の具体例として、例えば、病気によって職人さんがこれまで出来ていた作業ができなくなると仮定しましょう。病気になったことでめまいやふらつきが起こり、高い場所での作業ができなくなったとします。作業ができない自分にイライラしたり、周囲に暴言を吐いたりするようになるかもしれません。
この場合では、病気によって引き起こされた症状は「めまい」や「ふらつき」なので、これらが中核症状となります。そして、「イライラ」や「暴言」は中核症状によって引き起こされた症状なので、周辺症状と分類することができるでしょう。
認知症を原因として引き起こされる中核症状には、以下のものがあります。
もの忘れが増えたり、記憶力が低下したりすることを「記憶障害」と言います。記憶の仕組みは複雑で、最近のことは思い出せなくても、昔のことは覚えていたりします。しかし、進行するにつれて、だんだんと昔の記憶も失われていきます。ついさっきまで話していた内容を忘れ、もの忘れを指摘されても何について指摘されているか分からなくなってしまうでしょう。年をとると誰でも記憶は衰えますが、認知症と老化の違いとして、認知症は脳の海馬と言われる部分が壊れて、直近のことが覚えられなくなりますが、老化の場合、機能は衰えても働きは保たれます。
自分が置かれている状況が分からなくなることを「見当識障害」と言います。例えば現在地や時間、曜日、日時、身近な人との関係性など、基本的なことについて分からなくなったりすることもあるでしょう。何度も行ったことがある場所なのに道に迷ってたどり着けなかったり、家の中でトイレの場所が分からずに漏らしてしまったりすることもあります。
認知症の症状として代表的なものが理解力や判断力の低下です。特にご家族が感じることがあるのがこの理解力や判断力の低下です。家族が「もしかしたら認知症かな」と思うきっかけとして、理解や判断に時間がかかるというエピソードがあります。理解力の低下は完全に理解できないわけではありませんが、普段は何かを伝えると返事があったのに、何度も聞き直したり、何度も伝えなくてはならなかったりする状態です。判断力の低下は、3つ先のことまでお願いすると、1つ目をやっている時に2つ目、3つ目がわからなくなってしまうという状態です。例えば、洗濯物を干そうと思っても洗濯機から出した洗濯物をベランダに置いて終わってしまうような状況です。
計画して物事を進めることが難しくなることを「実行機能障害」と言います。また、「遂行機能障害」と呼ばれることも少なくありません。例えば料理をしながら新聞を読むといった二つ以上の物事を同時進行させることが難しくなり、焦がしてしまったり、どこまで読んだか忘れてしまったりすることもあるでしょう。その他にも、料理に必要な材料を買うことや、予想外のことが起こったときに適切な対応をすることが難しくなることもあります。しかし、ご飯を炊く、味噌汁を作るといったひとつの動作は出来ます。
中核症状には、失語・失認・失行という身体に麻痺などがないにもかかわらず、日常動作が難しくなる症状があります。この症状は必ず現れるわけではなく個人差があります。例えば、あれ、これ、それ、などの言葉が増えてきたり、会話がオウム返しになったり、視覚に異常がないにも関わらず形や大きさの認識ができなくなったり、日常動作がぎこちなくなったりする症状です。失語・失認・失行は脳卒中などの脳の狭い範囲が壊れて現れるような症状なのですが、認知症は脳の広い範囲が壊れてしまうためにこのような症状が現れてきます。
適切な言葉が出てこないようになることを「失語」と言います。簡単な単語でも間違ったり、明瞭な言葉が話せなくなったりすることもあるでしょう。例えば「スマホ」という言葉が出てこずに、「スマオ」等の似たような言葉を話したり、「財布」のようにまったく異なる言葉が出てしまったり、言葉が上手に出てこないために口ごもってしまったりするケースもあります。また、話をすることは問題がなくても、相手の話や書かれている文章を理解することが難しくなる場合もあるでしょう。会話することが難しくなったり、本や新聞を読まなくなったりすることもあります。
失認とは視覚や知覚の機能が損なわれていないにも関わらず、物を理解したり、把握したりすることができない状態のことを言います。失認は認知症が進行してから現れることが多いです。例えば、自分の身体がどうなっているのかを認知できないような症状のことです。具体的によく見られる症状として、鏡に映る自分を認識できないという症状があります。鏡を見て話しかけたり、ポスターに写る人物を見て話しかけたりすることもあります。
身体的には作業を行う能力があるのにもかかわらず、日常生活の基本的な動作ができなくなることを「失行」と言います。洋服の着替え方やたたみ方、お箸の使い方、化粧の仕方などを忘れてしまうこともあるでしょう。また、洋服のボタンを留めたり、文字を書いたりする等、日常生活で当たり前に行っている動作の1つの能力だけ失われることもあります。
中核症状によって引き起こされる周辺症状は、行動や心理状態に表れることが多いため「行動・心理症状」と呼ばれることもあります。認知症の周辺症状として、以下の症状を挙げられるでしょう。
実際とは違うことを信じ込む「妄想」も、認知症によくある周辺症状のひとつです。例えば財布を入れた場所を忘れて、家族が盗んだと騒ぎ立てることもあるでしょう。この攻撃は、一番身近で世話をしてくれている人(家族)に向けられることが多く、対象は、金銭や預金通帳・印鑑などがあります。家族は疑われたことに腹を立てるのではなく、認知症患者の話をよく聞いて、一緒に探したり、置き場を決めてなくしにくいようにしたりすることができます。
散歩に出たが帰り道が分からず歩き回ったり、現在から過去に記憶が戻って昔住んでいた家に戻ろうとして家を出ようとしたりする方も少なくありません。見当識障害や記憶障害から徘徊することもありますが、不安な気持ちから徘徊することもあります。徘徊しようとしているときは、認知症の方の世界に合わせて対応することが大切です。「せっかくなのでお茶でも入れますからゆっくりしていってください」とすすめたり、「家まで送りますよ」と家の周囲を一回りすると落ち着くことが多いようです。
認知症が進んだり、不安な気持ちが強まると、相手に対してひどい言葉で罵ったり、殴ったり、物を壊したりといった行為に出る方もいます。また、認知機能の低下により思っていることが表現できず、イライラして暴言・暴力が出ることもあるでしょう。大事なことは、「怒らせるようなことを言ったりしないこと」ですが、家族などの介護者に悪気はないことでも怒ることがあります。イライラしたり怒ったりしている態度が見られるときに効果的なことは、「お父さんの言う通り、さすがです。」などと、上手に演技して褒めることです。
現在地や日付が分からなくなると、不安になります。また、さっきまでしていたことやこれからの予定が分からないときも不安に感じるでしょう。認知症の中核症状により不安が引き起こされることは多いので、周囲の人々は不安を軽減するような声がけをすることが大切です。また、認知症になると、今までできていたことができなくなることがあります。できないことに気持ちが落ち込んでしまい、抑うつ状態になることもあるでしょう。今まで関心を持っていたことに興味を持てず、人と会うのが億劫になり、気持ちが滅入ってしまうこともあります。
幻覚の中には5つあり、幻視、幻聴、幻臭、幻味、幻触があります。一般的に幻覚と言われるのが幻視になります。幻視とは見えないものが見えることです。例えば、部屋にあるコードがヘビに見えたり、居るはずのない人が見えたりする症状です。このような症状をきっかけに落ち着かなくなったり、不安になったりして生活に支障をきたします。そのため、肯定も否定もせずに、受容的、共感的に接して不安を取り除く必要があります。
認知機能の低下により、食べ物ではないものを口に入れることもあります。例えば、机の上に花瓶に入れた花を飾って置いた場合、食べ物と間違えて食べてしまう可能性があります。そのため、普段、認知症の方が過ごす時間の長い場所では、特に注意が必要です。また、誤飲すると命に関わる洗剤や薬剤などは、絶対に身の周りに置かないようにしましょう。
中核症状が出てくると、家族にもストレスが溜まってきますが、最も辛いのはやはりご本人です。できるだけ穏やかに対応することで、家族もご本人もストレスなく過ごすことができます。また、ご本人の行動を抑制することで新たなストレスになったり、BPSD(行動・心理症状)に移行したりするため、できるだけご自身でできることは行ってもらうことが大切です。中核症状や周辺症状を理解し、穏やかな生活を送れるよう寄り添っていきましょう。
とはいえ、介護を続けるうちに疲れを感じることもあるでしょう。その際には、周囲のサポートを積極的に求めることが大切です。ご家族だけでなく、友人や地域の支援も頼りにして、安心できる環境を整えることが重要です。さらに、介護の限界を感じる前に、専門家や専門施設に相談することも考えてみてください。
例えばグループホームは、認知症の高齢者が少人数で共同生活を送りながら、専門スタッフのケアを受けられる施設です。家庭的な雰囲気の中で自立を支援し、認知症の進行を緩やかにします。24時間体制で安心して生活できる環境が整っています。入居条件は65歳以上で要支援2以上の認定を受けている方です。
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