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回復の見込みがないと医師に判断され、在宅介護を行うことになった場合、いつかは臨終を迎えることになります。予想はしていたこととはいえ、遺された家族は大きな悲しみに襲われることでしょう。家族に必要な「グリーフケア」について詳しく解説します。
目次
在宅で看取りを決意するということは、臨終の瞬間も在宅で迎えることを意味します。穏やかな最期を迎えられるように備えるためにも、臨終が近づいたときに見られる兆候について知っておくことが必要です。
臨終が近づくと、比較的早くから「意識障害」が見られるようになります。意識障害にはさまざまな状態があります。例えば揺り起こしても起きない昏睡状態や、一日の大半を眠って過ごす状態、また、集中力がすぐに途切れてしまい会話が続かなくなるなども意識障害です。そのほか、深い思考ができなくなったり、考えや話している内容が混乱してきたりすることも意識障害と判断できます。
「せん妄」は意識精神障害の一種で、意味が明瞭ではない言葉を発したり、幻聴や幻覚が生じたりすることがあります。意識障害では徐々に意識が低下するため介護をする家族も比較的穏やかに受け取れますが、せん妄は突然生じ、なおかつ叫びや混乱といった穏やかではない方法で表出されるケースもあるため、家族は戸惑ってしまうかもしれません。なお、認知症でもせん妄が見られることがあります。しかし、臨終の際に見られるせん妄には認知症におけるせん妄と異なり、意識障害が伴うことが一般的です。
尿量の減少も、臨終が近づいたときによく見られる兆候です。12時間の尿量が100mlに満たない場合は、死が近づいていると見ることができるでしょう。これは心臓を含む循環器の機能が低下したことで、尿が生成されにくくなることから起こります。しかし、かならずしも臨終が近づくと尿量減少が見られるわけではありません。臨終が近づいた後に失禁や便失禁が見られることもあるので、意識の状態についても詳しく観察するようにしましょう。
さらに臨終が近づくと「下顎呼吸」が見られるようになります。下顎呼吸とは下顎だけを動かして呼吸をすることで、顔が引きつるように見えるため傍目には辛そうな印象を与えますが、患者本人にとってはあまり辛くない状況のことが多いです。下顎呼吸が始まると数時間で臨終のときを迎えることがあります。しかし、個人差があるため、下顎呼吸が何日か続くこともあります。
呼吸の回数が減り、徐々に呼吸が停止していきます。なお、呼吸が停止しただけでは死亡とは判断しません。呼吸が止まり、心拍が停止し、瞳孔散大と対光反射の消失が見られてから死亡したと判断します。
呼吸が停止しても数分は心臓が動き続けることがあります。呼吸の回数が減ると同時に鼓動の回数も減り、徐々に死の状態に入っていくこともあるでしょう。鼓動が止まると身体が冷たくなり、数時間後には死後硬直が始まります。
グリーフ(grief)とは、深い悲しみや苦悩を表す英語です。長い間慕っていた家族が亡くなることで、孤独感や寂しさ、無力感を覚えるようになります。また、感情が麻痺したり、怒り・恐怖を感じるようになったりすることや、「あのときもっと違うことをすれば良かった」と、治療や介護の選択について自責の念が生まれることもあります。
グリーフは体の反応となって表れることもあります。夜眠れなくなったり、食欲・体力が低下したりすることもあります。常に疲労感や倦怠感を覚え、血圧上昇や便秘、動悸などの症状が表れることもあります。思考力が低下し、ぼんやりとしたり落ち着きがなくなったりする方も少なくありません。故人を思い出すようなものを見たくないと感じる方もいるでしょう。
グリーフケア(grief care)とは、深い悲しみや苦悩の状態にある方をサポートすること、また寄り添ってケアすることを指します。大切な家族を失うことで、家族は大きな悲しみや喪失感を味わうでしょう。介護や医療に携わる方や知人などの周囲の人々は、家族の悲しみを受け止め、前を向いて歩くことができるようにケアすることができます。
患者が亡くなることで家族は大きな悲しみを味わいますが、実際のところ「グリーフ」は患者が病気になったときや回復が難しいと分かったときから始まっています。そのため、患者の死後にグリーフケアを始めるのではなく、治療中、介護中から家族に寄り添いグリーフケアをしていくことができるでしょう。例えば、主治医や看護師は患者の状態を詳しく理解しているため、早期の時点から家族に対してグリーフケアを行うことが可能です。家族がどのような看取りを希望するのか、また、患者にどんなことをしてあげたいのか、誰に会わせたいのかなどを丁寧に聞き取り、家族が後悔せずに患者を見送れるようにサポートしつつ、家族の辛さに寄り添って慰める言葉をかけていきます。
葬儀に参列することもグリーフケアのひとつです。家族は葬儀の準備などで悲しむ余裕がなくなり、誰に向けるわけでもない怒りや不満、苛立ちを抱えていることが少なくありません。できる範囲で手助けをしたり、家族を思いやる言葉を口に出して表現したりすることで、家族の深い悲しみに寄り添うことができます。また、要介護者が亡くなったことで喪失感を覚えるだけでなく、要介護者の治療や介護でつながっていた人々との縁が切れることで、さらに強い喪失感を抱く家族も少なくありません。医療関係者や介護従事者が自発的に葬儀に参列するならば、家族の喪失感を軽減することにもなります。
強い悲しみを抱えたまま生きていくことは辛いことです。出かけたり付き合ったりすることが億劫になり、引きこもりの状態になるケースも珍しくありません。グリーフケアのひとつとして、家族の感情の出口をつくることがあります。例えば、かかわった医療関係者や介護従事者、そして家族が一緒に集まる機会を設け、故人への思いを吐露することもできるでしょう。家族だけでは言葉にできないことも、第三者が加わることで話せるようになるかもしれません。また、感情の出口をつくることで、家族が自責の念に駆られないようにする効果も期待できます。
ここまで、在宅介護での臨終についてみてきました。大切な家族を失ったことによる悲しみは、すぐに癒されるわけではありません。また、死の直後よりも数年後、数十年後に悲しみが強くなる場合もあります。しかし、回復の見込みがないことが分かったときから継続的なグリーフケアを行うことで、家族が死を受け入れ、悲しみを抱えていても前を向いて生きていけるようにサポートすることは可能です。まずは寄り添うこと、そして、悲しみだけでなく怒りや無力感、恐怖などの複雑な感情が押し寄せることを理解することからグリーフケアを始めましょう。
また、「グリーフケアは常に喜ばれるものではない」ということについても知っておきたいところです。医療従事者が葬儀に参列することで、悲しみや不快感が増す家族もいますし、家族会を設けても「辛かったことを思い出すだけだ」と反応する可能性もあります。葬儀に参列する場合は事前に家族に連絡して家族の意思を尊重し、一定の距離を取ることでグリーフケアを進めるようにしましょう。
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