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介護お役立ち情報

老人ホームでの便秘に悩むお客様への対応

2024年6月27日
東海林 さおり(看護師)
カテゴリー:
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高齢者を悩ませる代表的な症状の一つとして便秘が挙げられます。高齢のご両親がいる方は、親御さんからの便秘症状の訴えに悩まされることもあるのではないでしょうか。本記事では、高齢者の便秘の原因や対処方法等について説明していきます。「高齢になる親が近頃便秘気味だけど、どう対応していいかわからない」といった悩みがある方は、本記事をお読みいただければと思います。

高齢者に多い便秘とは

まず初めに、便秘の定義について説明します。便秘とは、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」を指します。具体的に述べると、慢性便秘症診療ガイドライン2017では以下の診断基準となっています。

「便秘症」の診断基準
以下の6項目のうち、2項目以上を満たす。

a排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
b排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便(BSFSでタイプ1か2(※1))である。
c排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
d排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
e排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
f自発的な排便回数が、週に3回未満である。


BSFS:ブリストル便形状スケール(※2)

※1 ブリストル便形状スケールという便の硬さと形状を表す指標があり、タイプ1は硬くてコロコロした木の実のような便を、タイプ2はいくつかの塊が集まって形作られたソーセージ状の便をそれぞれ表す。
※2 1997年にイギリスのブリストル大学で提唱された便の硬さや形状を表す指標であり、便の性状が7段階に分類されている。タイプ1~2は硬便であり、タイプ3~5は普通便、タイプ6~7は下痢便とされている。

上記の診断基準に照らし合わせると、排便が毎日あっても便秘症の基準を満たすことがあります。強くいきむ習慣がある方、硬便が多い方、残便感を感じる方は自分が便秘症の基準を満たしていないか、一度確認されると良いでしょう。

日本内科学会雑誌第109巻第2号.慢性便秘症診療 ガイドライン2017 – J-Stage.https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/2/109_254/_pdf/-char/ja,(参照 2023-04-17)

高齢者の便秘の原因4つ

高齢者の便秘の原因として、以下の4つが挙げられます。
①便秘を感じにくくなる
②腸の動きか弱くなる
③筋力の衰えにより、便を押し出す力が弱くなる
④食事の量が少ない

それぞれについて、具体的に説明していきます。

便意を感じにくくなる

高齢者の便秘の原因として、便意を感じにくくなる点がまず挙げられます。

便意を感じるメカニズムについて説明します。大腸にある便が直腸まで移動すると、直腸の壁に刺激が伝わり、その刺激が骨盤神経を通じて大脳まで伝達され、最終的に大脳が刺激されることで便意を感じるようになります。しかしながら、便秘を感じているにもかかわらず、排便を我慢する、あるいは排便をしない状態が多いと、大脳に便意を伝える神経の働きが弱まり、結果として便意を感じにくくなります。

高齢者では、便意を感じても排便を我慢してしまう状況が多々あります。例えば、入院が続いてオムツ生活になり、羞恥心から排便を我慢してしまう、または直腸に便が溜まっても、身体能力の低下によりトイレまでの移動が一苦労で、トイレに行きづらい生活が続いているなどの状況があるでしょう。このように、便意があっても排便を我慢してしまうと、便意を感じにくくなり、便秘が起こりやすくなります。

腸の働きが弱くなる

また、腸の働きが弱くなることも高齢者の便秘の原因となります。

排便をするためには、腸の蠕動運動で便を直腸まで移動させることが必要になります。腸の蠕動運動は自律神経である副交感神経の働きによって起こりますが、高齢になると、この副交感神経の働きが弱まり、腸の蠕動運動が低下します。

また、腸内環境も腸の蠕動運動と密接に関係しています。腸内にビフィズス菌などの善玉菌があると腸の働きも活発になりますが、高齢になると腸内環境が悪化し、善玉菌が減少して腸の働きが鈍くなってしまい、便秘が起きやすくなります。

筋肉の衰えにより、便を押し出す力が弱くなる

筋力低下も便秘の原因となります。

排便をする際、直腸に溜まった便を肛門から出す際には、いきんで腹筋や背筋、横隔膜を使って腹圧を高める必要があります。高齢になると、筋力が衰えることが腹圧を十分高めることができなくなり、排便の際に必要ないきむ力も弱ってしまいます。これにより、便を押し出す力が弱くなり、便秘が起きてしまうのです。

食事の量が少ない

高齢になると少食になりがちですが、食事の量が少ないと便秘になりやすくなります。

硬便よりも軟便の方が肛門から出しやすく、この便の硬さには水分量が大きく影響します。高齢になり少食になると、便のカサが減ったり、摂取する水分量が減少して硬便になったりして、結果として便秘傾向になります。また、食事で摂取する食物繊維は腸の蠕動運動を活発にしますが、こちらも高齢になり摂取量が少なくなることで、腸の蠕動運動が低下して便秘が生じやすくなります。

高齢者に多い便秘の症状

高齢者に多い便秘の症状としては、下腹部痛や腹部膨満感、吐き気、嘔吐、残便感などがあります。腸に便が溜まることで、便を押し出そうと腸の蠕動運動が亢進し、下腹部痛が生じます。また、便が溜まることで腸のガスも溜まりやすくなり、腹部膨満感が出現し、腹部膨満感により嘔気や嘔吐が出現します。

便秘になることで食欲不振を招き、栄養状態が低下して身体の機能が低下することがあります。また、便秘により排便時のいきみが強くなることで血圧が上昇し、脳卒中や心血管疾患のリスクが上昇すると言われています。

便秘は精神的影響も及ぼします。便秘により腸内環境が悪化すると、セロトニンの分泌が減少します。セロトニンは精神的な安定をもたらす作用があるため、セロトニンが減少することで精神的に不安定となり、イライラなどが起きやすくなります。

高齢者の便秘の対処方法

では、高齢者に対する便秘の対処方法として、どのようなものがあるでしょうか。対処方法として、便秘に効果的な食生活を取り入れることや、生活習慣を見直すことが挙げられます。それぞれについて詳しく説明します。

高齢者の便秘改善に効果的な食事

高齢者の便秘改善には、適切な食事が重要です。多くの老人ホームでは、管理栄養士や調理師が工夫を凝らし、食物繊維を含むバランスの取れた食事を提供しています。以下に、その具体的な方法を紹介します。

規則正しい食事の提供

毎日3食、決まった時間に適量の食事を摂ることが便秘改善に役立ちます。規則正しく食事をすることで体のリズムが整い、腸の蠕動が活発になります。特に朝食を摂ることで、朝のうちに腸の動きが促され、午前中の排便を促進します。

食物繊維とビタミンの摂取

食物繊維は腸の蠕動運動を促し、便秘改善に効果的です。特に栄養指導を行っている老人ホームでは、人参やジャガイモ、カボチャなどの食物繊維を豊富に含む食材を使った料理を提供する傾向にあります。また、ビタミンB群やE、Cを含む食材も取り入れ、腸の健康をサポートしています。特にビタミンCは便を柔らかくする作用があるため、積極的に取り入れています。

良質な油の活用

良質な油を摂取することで、腸の蠕動運動が活発になり、便の移動がスムーズになります。栄養指導に意欲的な老人ホームでは、えごま油やココナッツオイルなどの良質な油を使用した料理を提供し、便秘予防に努めています。

十分な水分摂取

食事以外にも十分な水分摂取が便秘改善に重要です。高齢者はのどの渇きを自覚しにくいため、こまめな水分補給が推奨されています。便秘対策の意識がある老人ホームでは、起床時にコップ一杯の水を提供したり、定期的に水分補給を促す工夫を行っています。

このように、特に栄養指導を行っている老人ホームでは管理栄養士や調理師が一丸となって高齢者の便秘改善に取り組んでいます。バランスの取れた食事と適切な水分摂取で、高齢者が快適な生活を送れるようサポートしています。

生活習慣の見直し

生活習慣の見直しも便秘改善に役立ちます。老人ホームによっては、便秘対策のために体操やストレッチなどの運動指導を行っているところもあります。具体的な方法として、以下の2つが挙げられます。

規則正しい生活リズムをつくる

便秘を改善するためには、規則正しい生活リズムが重要です。排便には自律神経が密接に関わっており、自律神経を整えるには、毎日決まった時間に起き、決まった時間に寝ること、そして食事もなるべく同じ時間帯に3食摂取することが効果的です。夜更かしや睡眠不足は自律神経の乱れを引き起こし、排便リズムを狂わせる可能性があります。規則正しい生活を心がけ、排便習慣を作ることが大切です。また、排便を我慢せず、自然なリズムを保つことも重要です。

適度な運動を心がける

適度な運動も便秘改善には欠かせません。老人ホームによっては、体操やストレッチなどの運動指導を行っているところもあります。運動は排便に必要な筋肉を鍛え、大腸に刺激を与えて蠕動運動を促します。日々の生活の中で行える運動としては、散歩やガーデニングなどがあり、高齢者でも無理なく続けられるものが推奨されます。

このように、生活習慣の見直しと適度な運動は、老人ホームでのサポートと相まって、便秘改善に非常に効果的です。個々の利用者に合わせた支援を通じて、快適な生活を提供しています。

便秘解消マッサージ3選

便秘を解消する方法として、お腹のマッサージは有用です。マッサージの方法としては、以下3つが挙げられます。
①「の」の字マッサージ
②背中をさするマッサージ
③お腹を押し込むマッサージ

それぞれについて、説明していきます。

「の」の字マッサージ

「の」の字マッサージとは、大腸の走行に沿って手でお腹をさするマッサージ法です。お臍の辺りから 「の」の字を書くように手のひらでお腹をさすってマッサージを行います。これを時計回りに3分ほど繰り返し行い、その後は反時計回りに3分ほど同様に行います。これを行うことで、大腸の蠕動運動が活発になります。

背中をさするマッサージ

続いて、背中をさするマッサージについてです。このマッサージは便が直腸まで下りてきて、便が出そうなときに有効です。腰のあたりから背中を下にさするように手でマッサージをしてみましょう。これにより直腸や肛門に刺激が加わり、排便しやすくなります。

お腹を押し込むマッサージ

握った手でお腹を押し込むマッサージについてです。このマッサージは、S状結腸に溜まった便を直腸側へ移動させる効果があります。握りこぶしで左下腹部の辺りを20~30秒ほど、強めに押し込みます。これを何回か繰り返すことで、S状結腸に溜まった便が直腸に異動しやすくなります。

高齢者の便秘、何日でないと危険?

では高齢者の場合、何日排便がないと危険なのでしょうか。

週当たりの排便回数には個人差があるため、断言できないこともありますが、一般的に1週間以上排便がなく、腹痛や嘔気、腹部膨満感などの症状がある際は腸閉塞を起こしている可能性がありますので、医療機関を受診された方が良いでしょう。

3日ほど排便がなくても、腹痛や残便感、腹部膨満感などの症状がなければ、危険というほどの状態ではありません。

病気が原因で起こる便秘

病気が原因で便秘が起きる場合があります。いくつかの疾患について説明します。

まず、大腸癌が原因で便秘が起きることがあります。大腸癌ができると、腫瘍により腸の通り道が狭くなり、便が通過しにくくなります。腫瘍が小さいうちは便が通過しますが、腫瘍が大きくなると便が大腸を通過しなくなり、便秘になります。大腸癌に伴う便秘の場合、血便を認めることが多いので、血便が出た際は要注意です。

また、パーキンソン病も便秘を引き起こします。パーキンソン病は脳のドパミン神経細胞が減少する病気ですが、自律神経の働きも低下するため、便秘が起きやすくなります。パーキンソン病の症状として安静時のふるえや筋肉のこわばりなどがあり、便秘に加えてこれらの症状を認めた場合は、パーキンソン病の可能性を考慮して医療機関を受診した方が良いでしょう。

まとめ

高齢者が便秘にならないために、老人ホームではどのようなケアがされているのでしょうか。

多くの介護付き有料老人ホームでは、看護師や介護士が協力し、入居者の普段の排泄状態や体調を定期的にチェックしています。便秘の早期発見と早期治療を心がけることで、入居者の生活の質を向上させています。

また、食事面でも工夫がされています。食物繊維やビタミンを多く含むバランスの取れた食事を提供し、水分摂取も十分に行うよう配慮されています。これにより、腸の蠕動運動を促し、便秘の予防に努めています。

さらに、適度な運動も推奨されています。老人ホームでは、体操やストレッチ、散歩など、入居者が無理なく続けられる運動プログラムを提供している場所もあります。これらの運動は腹筋などの筋肉を鍛え、腸の動きを活発にします。

このように、多くの老人ホームでは、入居者一人ひとりの健康状態に合わせた総合的なケアを行い、便秘の予防と改善に努めています。不安を取り除くために、事前に見学や相談をしてみることを強くお勧めします。実際に施設を見学し、スタッフと話すことで、どのようなケアが行われているかを確認できます。これにより、家族も安心して入居を検討できるでしょう。見学や相談を通じて、施設の雰囲気やケアの詳細を把握し、大切な家族が安心して過ごせる環境を選びましょう。

著者プロフィール

東海林 さおり(看護師)
東海林 さおり(看護師)
看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。

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